
海岸線と川沿いをなぞるように広がってきた放生津地区の家々の多くは、間口が狭く、奥行きのあるつくりです。昔は、家屋からそのまま船に荷物を積んだり、人が乗ったりしていたそうで、川に面している方が実は裏玄関で、細い路地に面している方が表玄関という家が多いのも特徴。
雨つゆから建物を守るため、木の板やトタン、鋼板で建物を覆っている家がほとんど。外からはなかなか見えませんが、中庭や内蔵を持つ家は少なくありません。家の中にお邪魔してみると、その奥行きと意外な広さに驚きます。限られた土地で、お隣とくっついて建てられていても、快適に暮らせる知恵が隠れているのです。
また、内川周辺の小さな路地にも、湊町ならではの工夫や魅力がにじみ出ています。表庭のない家では、プランターや植木鉢で緑や彩りを演出するのが基本。お隣の家が取り壊されたことで、倒れないようにつっかえ棒のしてある家屋もよく見かけます。
そして、特筆すべきは、「角切り」の家の多いこと。狭い道でも、車や曳山が通りやすいように角を切るので、四角形ではなく五角や六角の家になっています。切られた面にガラス窓や扉が付けられていると、より一層レトロでモダンな雰囲気が醸し出されます。
他にも、格子(「さまむすこ」「、さまのこ」)のある家、緑青の吹いた銅板葺きの家など、古くからある建築様式も多く残っています。

- 1┃内川沿いの見事な板壁といえば「番屋カフェ」。中には土蔵が3 つあり、この板壁はそれらを囲う外側のカバーのようなもの。
- 2┃「背戸」と呼ばれる家の裏路地。かつては漁師の奥さんたちの作業場であり情報交換の場だった。
- 3┃連なる町家の緑は、ほとんどが大小のプランター。表情豊かな景観を作っている。
- 4┃くねくねした狭い路地に沿って、しっかりと融雪装置が。
- 5┃海に近い路地で出会ったワンちゃんからは潮の香りが。
- 6┃海へ向かう道。家々の壁の色がレゴブロックのようにカラフル。黒い瓦屋根のおかげで連続性が保たれている。
- 7┃緑のツタが生い茂る廃墟。ここまで茂ると見ごたえがある。